耳日記

エスペラントの立ち位置はどこか -屈折語・膠着語・孤立語・抱合語

エスペラントの位置

エスペラントは、ポーランドの眼科医ザメンホフが作った人工言語だ。ザメンホフは、エスペラントが世界中の人々の第二言語となり、言語が違う人々の間の架け橋になることを願った。そのため、エスペラントは誰にとっても学びやすい、中立な言語である必要があった。この試みが成功したとは言い難いが、一方で今もなお強固なエスペラントコミュニティが世界中にある。

エスペラントの基礎 -0- エスペラントとは
エスペラントは、ユダヤ系の眼科医、***ラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフ***によって作られた人工言語だ。エスペラント語ともいわれるが、単にエスペラントというのが一般的。非常に平易な文法構造で知られ、容易に学習することができる。
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エスペラントの基礎 -0- エスペラントとは

さて、そんなエスペラントではあるが、その中立性には今まで大きな疑問が呈されてきた。語彙の多くがヨーロッパ語からとられている点を指摘し、ヨーロッパ語的であるとの批判が根強い。

今記事では、伝統的な言語の分類である、屈折語、膠着語、孤立語、抱合語に着目し、エスペラントがそのうちのどこに属するかを考える。まずはそれぞれの言語がどのようなものかを解説し、その後エスペラントについて考える。

屈折語

屈折語はロシア語、ドイツ語などヨーロッパ語に多く見られる言語範疇の一つである。英語も屈折語に含まれるとされる。デジタル大辞泉では屈折語を以下のように定義している。

言語の類型的分類の一。単語の実質的な意味をもつ部分と文法的な意味を示す部分とが密接に結合して、語そのものが語形変化することにより、文法的機能が果たされる言語。インド‐ヨーロッパ語族やセム語族の諸言語など。

例えばgo(行く)という単語について考える。これを過去形にするとwent(行った)となる。gowentに変わっている。このような変化を、屈折という。屈折する事で、文法的な機能を果たす言語が屈折語だ。

膠着語

膠着語は日本語、トルコ語、韓国語などに見られる言語範疇だ。デジタル大辞泉は以下のように定義している。

言語の類型的分類の一。実質的な意味をもつ独立の単語に文法的な意味を示す形態素が結び付き、文法的機能が果たされる言語。フィンランド語・トルコ語・朝鮮語・日本語など。粘着語。漆着語。付着語。

膠着語は私たちが話す日本語が属している範疇だ。例えば、食べるという単語について考える。例に倣ってこれを過去形にすると、食べたとなる。ここでどのような変化が起きたのかというと、語幹である食べに過去を表すがひっついて文法的な機能を果たす。この「」などの単語にひっつくものを形態素という。食べたに尊敬を表す形態素であるますを着けることで食べましたなどとすることもできる。

ここで、英語について触れておく。learnの過去形learnedlearn+形態素edなのではないか、英語は膠着語なのではないかと思った人もいるかもしれない。これは非常に鋭い指摘で、実際、英語はどんどん膠着語的な性質を持つようになってきている。一方で、先ほどのgo-wentの例のように屈折語的な性質も多くあり、屈折語に分類されるというのが大半の意見だ。

孤立語

孤立語は、主に中国語などに見られる言語範疇だ。例に倣ってデジタル大辞泉の定義を紹介する。

言語の類型的分類の一。単語は実質的意味だけをもち、それらが孤立的に連続して文を構成し、文法的機能は主として語順によって果たされる言語。中国語・チベット語・タイ語など。

孤立語はそれぞれの形態素が孤立していて、変化をしない言語のことです。例えば我爱你という文章は++の三つで構成されていて、それぞれは変化しない。これを過去形にすると我爱了你となる。追加されたは過去を表す助動詞だ。このように各要素が孤立しているのが孤立語の特徴だ。

抱合語

最後は抱合語だ。抱合語はアメリカンインディアン諸語などにみられ、非常にマイナーな言語範疇であると言える。デジタル大辞泉では以下のように定義している。

言語の類型的分類の一。さまざまな要素を連ねて、内容的には文に匹敵するような長い単語を形成しうる言語。エスキモー語やアメリカインディアン諸語など。輯合語(しゅうごうご)。

非常に多くの形態素を一つの単語に付加することができるのが特徴だ。非常によく知られた例として、「qangatasuukkuvimmuuriaqalaaqtunga」というイヌイット語の言葉がある。これはqangatasuuk(飛行機) + kuvik(空港) + muu(行く) + ria(する) + qaq(未来) + laaq(なければならない) + tunga(私は)で構成されている。

エスペラントの位置

さて、ここからはいよいよエスペラントとについて考える。なお、本項目は『エスペラント語の位置測定』(クロード・ピロン著、水野義明訳 名古屋エスペラントセンター)に大きく依拠している。

エスペラントは一般的に膠着語に分類されることが多い。様々な接辞から単語を生み出すことができるからだ。例えばvarma(熱い)に反対を表すmalを付け加えるとmalvarma(寒い)となる。このようなエスペラントの特性は膠着語的であると言える。

エスペラントには孤立語的な部分も多くある。中国語には独立して用いられると別の新しい意味をとる接辞が多くある。例えば-家は専門家を意味する接辞であるが(科学家-科学者など)、単独で使うと家族という意味を持つ。一方で、エスペラントは全ての接辞が常に同じ意味を持つ。この点においてエスペラントは中国語よりも孤立語的であるということができる。

一方で、エスペラントの文法に屈折語的な要素はあまり見られない。

こうしたことを踏まえ、エスペラントの言語的な立ち位置についた考えるのならば、孤立語の要素を強く持つ膠着語であると言うことができる。したがって、語彙の多くがヨーロッパ語から借用されていることを踏まえた上でも、エスペラントがヨーロッパ語的であるという批判は的外れであろう。

結論

今回は屈折語-膠着語-孤立語-抱合語の分類を紹介し、その中でエスペラントがどこに位置づけられるかを論じた。エスペラントは様々な言語の性質を併せ持っている。エスペラント語がヨーロッパ的であるというのは誤りであることがわかる。一方で、語彙がヨーロッパ語から借用されている点から、全ての人にとって真に中立であるということもできない。

#esperanto